2011年10月31日月曜日

地球人デザイナー

わだはゴッホになる
以前、私が棟方志功展を見に行った時、
草野心平氏が棟方志功氏を書いた詩に「わだばゴッホになる」という詩があります。

鍛冶屋の息は。
相槌の花火を散らしながら。
わだばゴッホになる。
裁判所の給仕をやり。
貉の仲間と徒党を組んで。
わだばゴッホになる。
ときめいた。
ゴッホにならうとして上京した貧乏青年はしかし。
ゴッホにならず。
世界の。
MUNAKATAになった。


この詩はデザインの国際性を意味しているように思われます。
現在日本のデザインの置かれている立場を考えるとき、十数年前にはデザインの国際性という名の元に私達は欧米にゴッホの姿を見、ゴッホに追いつけ追い越せと急ぐばかりに、模倣をしてみたり、又自分の感性を磨くためにヨーロッパに渡欧してみたり、ありとあらゆる努力をし、調査・研究をしてゴッホを追い求めてきた様に思います。
そして今日、日本のデザインはゴッホではなく日本独自のデザインを作り出しつつあるのではないか…とは考えられないでしょうか。


日本の感性と欧米の感性
私達のプロジェクトで企画・開発したカードソーイングは今世界で70万人以上の人達に喜んでいただいていると思います。さらには昨年ニューヨーク近代美術館にパーマネントコレクションされました。この商品は、厚さ5mmの中に、ハサミと種々の裁縫用具がシンプルに美しく整理され収納されているだけでなく、最先端の金型技術を使用し、ヘアーライン、ダイヤカット、梨地等の微細な表面処理を駆使しました。「日本のプロダクトを代表する精巧さとデリケートな表現をみごとに商品化している」と数々の賞賛をあびました。ある時、フランスのデザイナーと米国のデザイナーに会う機会に恵まれ名刺変わりにと思い「プレイトン」をプレゼントした所、彼らはすでに東京の某デパートで購入し、自国に送ったということでした。話題が「プレイトン」のデザインコンセプトに移り、色々と話をしていくうちに彼らが言うには「プレイトンは非常にシンプルでコンパクトであり、しかも優雅な処置に日本を見た」とデザイン文化論にまで発展しました。そして次に「こんなにも美しく針や糸やハサミ等がコンパクトに整理されているならば、ケースを透明にし積極的にアピールすべきではないか。透明のケースに入れるか内容表現されたデザインを目的とすべきだ」と意見が出ました。このような発想は私には想像もつかないことで、私は東洋人と西洋人の違いを感じることが出来ました。又建築に話題を移した時には、コンクリート打ち放しによる建築を彫刻的な世界にまで高めた安藤忠雄氏の六甲の集合住宅が話題に上りました。世界でも例を見ないといわれる彼の作品は、日本人の文化構造をそのまま提示している様で、日本は異種の文化を取り入れ自分のものにすることで独自の文化を創り出してきました。西洋の文化とクロスオーバーさせながら伝統的な日本の美意識に相打ちされた簡素で繊細な生活感を寄り所としています。「我々には安藤氏の建築のすばらしさは理解できるが、想像できないし、イメージすらでてこない。」と彼らは言う。なぜならば、欧米人にとってはコンクリート平面にあれだけの繊細で精巧な処置が成されている仕上がりを要求することが不可能であるばかりでなく、建築の構造物を見せることは彼らのイメージの中にはないということです。
この二つの話の共通する部分は、生まれ育った環境と文化背景に根ざした強いアイデンティティーが物のとらえ方を日本的に変化させているという真実を私達に語りかけているのではないでしょうか。

日本人の発想
伝統を守り伝統をデザインする北欧、理論的で合理的なドイツ、オリジナリティーを自由な心で思うままに表現するイタリア、生産性を重視した合理主義思想の米国、これらの国々と日本のデザインは明確に異なるという点を我々デザイナーは自覚しなければならない。
日本人の日常生活でのもののとらえ方の中には、人よりも目立ちすぎない、周りに従う等の意識基盤があります。そして与えられた条件の中で美しさを見出したり余韻を楽しんだりします。このような日本人特有の意識の枠の中で差異を追求し、究極を求めなければならない非常に厳しい条件が課せられていますが、このような中でこそ素材とか処理技術とか高度な質感が構築されていくのです。これが日本人の本質志向であったり本物志向であったりする様です。さらにもう一面重要な点は折りたたみ傘や扇子、提灯等に見られる、使う時と使わない時に形が変わる文化です。欧米ではこの様な発想は見られないのです。使う目的にあわせてモノ化され、使う時も使わない時も形が主張します。これが欧米の形のとらえ方ではないでしょうか。
前文でも述べた様に日本の形に対する場合の考え方は元来一つの目的のためにあるのではなく、多機能的であり自由自在に構成されることにあります。フレキシブル性や融通性が東洋的システム考になるのではないでしょうか。


デザインの国際性
アジアからはNIES商品が大量に入ってきて価格問題などを起こし、ヨーロッパからはブランド商品とプロダクトデザインをはじめ、建築デザイン・スペースデザインのデザイナーの進出がめざましい今日、日本のデザイナーも海外で仕事をする現状となって来ました。この様に地球レベルでのデザインが必要とされる今、我々デザイナーには次の様な要因が、不可欠になるのではないかと考えます。
「文化的背景に根ざした強いアイデンティティー」「イノベーションを持つデザイナー」「地球人に喜びと満足感を覚えてもらえるデザイナー」
いろいろと述べてまいりましたがつまるところ「デザインの国際性」とはデザイナー自身の文化的背景に立脚した明確なアイデンティティーなしではありえないと確信しています。
美しい地球であり続けるために!

1988.12.10 作成

0 件のコメント:

コメントを投稿